★ 【チョコレートキングの挑戦!】美少女戦隊、飛行怪獣ショコラドンと戦うの巻 ★
<オープニング>

 銀幕市中に、甘い匂いが漂っていた。
 うっとりするような、それはチョコレートの香りだ。だが、誰も、その香りに心躍らせているものはいなかった。なぜならばその匂いのもとが、目下、銀幕市に脅威をもたらしているからだ。
 ズシン、ズシン、と重い地響きが、市街をふるわせる。
 昆虫めいた3対6本の脚で、それは立ち上がり、歩んでいる。脚が支えているのは、いくつものパイプやタンクで構成されたプラントのようなものだった。いくつも煙突らしきものが突き出し、そこからさまざまな色の煙を吐き出している。それが甘い匂いのもとであるらしかった。
 それは大きな工場がひとつ、脚をはやして立ち上がったようなしろものだ。かのキノコ怪獣さえしのぐ大きさのものが、湾岸の工場地帯から、街の中心部のほうへ向かってくるのを見て、いよいよ銀幕市も終わりかと、青くなったものも少なくない。
「『お菓子の国の冒険』というメルヘンチックなファンタジー映画からあらわれたようですね」
 植村直紀が手元の資料を見ながらいった。
「あれは『キングスファクトリー』といって、『チョコレートキング』が住むお城であり、彼のお菓子工場でもあります。……映画の設定では、チョコレートキングは温厚な人物ですし、あれも、各地を旅しながら子どもたちにお菓子を配っていくという……そのためのものなのですが……」
 困惑気味に話す。
 どこでどう間違ってしまったのか、キングスファクトリーは夢のお菓子工場ではなく、いまや要塞であり、兵器工場であり、敵軍の母艦のようなものだ。
 敵軍――。
 そう。それはときおり、バラバラと、その工場で「生産」されたとおぼしきものを吐き出しながら歩んでいる。それは文字通りの「お菓子の兵隊」たちであって、それらが引き起こす事件や被害についても、先ほどからひっきりなしに『対策課』に飛び込んできていた。
「私は市街地で起きている事件の処理を手配します。……あれについては、マルパスさんにお任せするべきですね」
 植村は、黒衣の司令官にそう言うと、現状、入手できただけの情報を記したファイルを置いて、忙しそうに駆け出していった。
 そしてマルパスは市役所の窓から、いまはまだ遠い『キングスファクトリー』の影を見据える。
 まぎれもない「戦争」が、銀幕市ではじまろうとしていた。

 ★ ★ ★

 話は少し、遡る。
 それは、過ぎ去りし聖夜のできごとだ。
 まだ記憶に新しい『封印の城』のある、『忘却の森』。何ともロマンティックなムービーハザードに恵まれながら、ロマンスとは逆方向にダッシュしたひとびとも少なからずいた。
 そして、珊瑚姫もそのひとりだった。
 漢たちの魂の叫びをBGMさながらに聞き、心を動かされ袂で目頭を押さえつつも、あえて彼らに声はかけず、珊瑚は――食べられそうな植物を採取していたのだ。
 誰も気づいたものはいなかった。珊瑚の行動を知ったなら、「懲りずにまたそんなことをっ」と、青ざめて足にすがりついて止めたかも知れなかったのだが。
 ――そう。
 まったくもって危険極まりなかった。
 珊瑚は『忘却の森』から、カカオ豆……に非常によく似たものを持ち帰ったのである。
 それを材料にチョコレートを手作りし、バレンタインにばらまこうという魂胆であった。
 そもそもバレンタインの認識すら珊瑚は誤っていたのだったが、その辺については、忘却の森カカオを使用したチョコ作成に比べれば、ささやかな問題であろう。
  
「映人には『義理ちょこ』、直紀には『同情ちょこ』を。盾崎編集長には『人情ちょこ』、導次親分には『義理と人情ちょこ』、ろい監督には『お仕事くださいちょこ』。柊市長には『あれこれ陳情ちょこ』、まるぱす閣下には『やや本命ちょこ』を贈ろうと思うのです!」
 バレンタインデーが近づきつつある、某日のこと。
 カフェ・スキャンダルの厨房には、チョコレートの甘い香りが充満していた。とうとう珊瑚は、またもあやしげなものを完成させてしまったのだ。
「ええっ? 珊瑚ちゃんって、マルパス司令が本命なの? っていうか、源内さんが抜けてるけど?」
「甲斐性無しにちょこを渡しても無意味ですえ。一番、質実剛健な三倍返しがいただけそうな殿方を『本命』と呼ぶのではありませぬか」
「……あのね、バレンタインっていうのは、三倍返しを前提にしたイベントじゃなくてね……」
 などと呑気な会話を交わしながらも、梨奈は責任上、我が身を持ってチョコレートの効果のほどを確認することにした。
 つまり、試食したのだ。
 食べて30分。特に何の変化もない。『忘却の森』はムービーハザードといっても無害なものであったし、森の植物に、あのキノコのような特殊効果はないのだろう。
 ……少しだけ肌がすべすべになり、髪に艶が増したような気はした。美容効果があるのだとしたら、むしろ喜ばしい。
 やがて珊瑚は、完成したチョコをラッピングして、仮説住宅へと持ち帰り―― 

 事件は、起きた。チョコ入りの箱が全て、奪われてしまったのである。
 カフェ・スキャンダルに小さな兵士が現れたのと、同日のことであった。

 仮設住宅の窓ガラスを枠ごと壊し、巨大なくちばしを突っ込んでいた犯人を、偶然にも導次親分が目撃していた。
 チョコを奪うなり、「それ」は羽ばたきながら、杵間山の方向へ飛び去ったという。
「ありゃあ、いわゆる怪獣やな。翼竜っちゅうか――なんとかドン、とかおるやろ? あんな感じやった」
「ふぇぇぇ〜ん。ううぇぇぇっく。せっかく皆に配ろうと思って作ったのにぃぃぃ〜」
 三倍返しの下心があったことは取りあえずおいといて、カフェ・スキャンダルのテーブルに突っ伏し、珊瑚は泣き崩れる。
「災難やったなあ。姫さんが手ずから作ってくれたことやし、きちんと食べたかったんやが」
 義侠心に駆られた導次は、そう言ってしまい、地雷を踏んだ。なんとなれば――
「少しでも食べてもらえますかえ? 残っていた豆を使って、作り直してみたのです。もう配れるほどの量ではないのですが……」
 涙を拭いた珊瑚は、チョコをひとかけら、皿の上に乗せて差し出した。導次がそれを口にしたとたん。
 異変が起こった。
 梨奈が試食したときには発生しなかった劇的な変化が、現れたのだ。
「うん、なかなかいけるやないか……。ん?」
 導次のがっしりした体躯が、みるみるうちに、ほっそり柔らかなラインになっていく。肌は透きとおるように白くなり、切れ長の瞳は甘やかな輝きを帯び、さらりと長く伸びた黒髪は、艶やかな光沢を放つ。
「こりゃあ、どうしたことや!」
「まあ……。ドウジ親分……。すごく綺麗です……」
 あまりのことに梨奈は、思わずそんな感想を漏らす。
 珊瑚は目をぱちくりさせてから、ようやく、おのれのしでかしたことに気づいた。
(はっ。もしや……。『忘却の森』は超ろまんちっく属性。ゆえに、そこで取れた植物の種は、食した者を恋に恋する年頃の乙女に変えてしまう効果があるのでは……)
「まったく姫さんはしょうがないな。ほれ」
 大荷物を抱え、源内がカフェにやってきた。鎧のようなスーツのような、摩訶不思議なデザインの衣装を数人分、テーブルの上に並べる。
「見りゃわかるだろう。こんなこともあろうかと密かに用意した、対飛行型怪獣専用の特殊戦闘服(ハイティーンの細身な女子限定)だ」
 こんなこともあろうかと、という部分にはあえて突っ込まず、珊瑚は首を捻る。
「どうして、少女用しか準備しなかったのですか?」
「男の戦闘服なんざ開発して、何が楽しい」
 開き直ったマニアのようなことを言い、源内は戦闘服を指さす。
「バレンタインチョコを取り戻したいなら、怪獣と戦ってくれそうな協力者を募って、これを着てもらえ。チョコの効果は僥倖だったな。たとえむくつけき大男でも、それを食べればサイズは合うわけだから」

種別名シナリオ 管理番号65
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
クリエイターコメントあちらこちらで、かっこいい戦闘シナリオが展開(推測)されている中、あえてイロモノ道を邁進したいと思います。
さて。
イベントのお約束というかなんというか、珊瑚姫があやしいチョコを作り、それをチョコレート製怪獣に奪われてしまいました。
チョコを取り戻したあとの方が危険では、と思う向きもおありでしょうが、お気の毒にも美少女化してしまったドウジ親分は、ここまで関わったからにはということで、特殊戦闘服を着てくださる模様です。
この際、ドウジ親分と美少女戦隊を結成し、ともに「飛行怪獣ショコラドン(源内が命名)」と戦ってみませんか?

1)もともと美少女なかたは、チョコを食べなくても構いません(食べれば、美少女度がアップしますが)。
2)老若男女人外問わず、チョコを食べれば美少女化いたします。基本的に、性格・口調は変化しませんが、こだわりをお持ちのかたはご指定くださいませ。
3)戦闘服のデザインや色、露出度等にご希望がありましたらどうぞ。全力で設定させていただきます。
4)決めゼリフ等、お持ちでしたらお教えくださいませ。
5)美少女効果は2日くらいで切れます。

ちなみにショコラドンは、超高級ホワイトチョコとストロベリーでできている、淡いパステルピンクの翼竜型怪獣です(顔は凶悪)。

それでは、ご参加をお待ちしております。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
三月 薺(cuhu9939) ムービーファン 女 18歳 専門学校生
冬月 真(cyaf7549) エキストラ 男 35歳 探偵
鳶城 華音(carm2949) ムービーファン 女 15歳 中学生
鹿瀬 蔵人(cemb5472) ムービーファン 男 24歳 師範代+アルバイト
<ノベル>

ACT.1★甘い罠の功罪

 ――つまり。
 目下、銀幕市は「戦時中」であった。
 小さなお菓子の兵隊たちを守護する、戦闘力の高い鼈甲飴の騎士三体も見受けられたし、ホテル銀幕ハイ・グランドでは、プリン小隊によって、20階展望レストランが占拠されているという。
 市街から離れた住宅地も安全ではなく、西崎家という一般家庭に於いては、難病の少女の誕生日のために用意した、心づくしのケーキまでが奪われようとしているらしい。
 マルパス司令の元に集い、果敢にもキングスファクトリーの心臓部に突入せんとする作戦すら、立てられている。後方援護部隊はノーマン少尉が率いるようだが、これはこれで命知らずなことだ。
 とはいえ、ただでさえ事件が絶えないこの街のこと。皆、どこかしら非常事態に馴染んでしまっている感は否めない。
 カフェ・スキャンダルも、メニューのスイーツ欄が二本線で消され、『ごめんなさいっ! 兵隊さんに盗られちゃいましたぁ!』と梨奈のコメントが添えられていること以外は、通常営業を続けている。
 そんなさなか、冬月真がカフェにいたのは、まったくの偶然だった。
 猫探しのスペシャリストである探偵は、事態を静観するべく、ゆったりと椅子に腰掛けて、薫り高い珈琲を飲んでいた。騒ぎを避けて、休憩&くつろぎタイムを堪能していたのだった。
 んが。
 その一方で、別テーブルでは、美少女化したドウジに戦闘服を押しつけて、「厨房で着替えるといい。たった今から、カフェ・スキャンダルの厨房は『戦闘用員着替え室及びショコラドン殲滅作戦本部』とするぞ!」と、源内が店の許可も取らずにぶち上げる等の阿鼻叫喚絵巻が展開されていたわけである。
 まだ何も気づいていないがゆえの、クールなティータイムは、当然ながら、思いっきり破られることになった。
 ことん。緑茶入り湯呑みと、花柄小皿に乗せられたチョコが、真の前に置かれる。
「……あんた、探偵さんだろう? ちょいと頼みごとがあるんだが」
 突然声を掛けられ、真は怪訝そうに顔を上げた。
「猫探しなら無理ですよ? この騒ぎじゃ見つかりませんからね」
「いや、探して欲しいのは猫じゃなくて、もっと凶暴な大物だ。見つけたら、退治して欲しい」
「退治だと?」
 探偵仕事とは無縁な依頼に、真の口調がシビアに変わる。
「ああ。『対策課』で聞いたことがあるんだが、あんた、良い腕してるそうじゃないか、拳銃の――俺のおごりだ、まあ食べてくれ」
 おごりというにはささやかすぎる小さなチョコを、真は勧められるままに食べた。
「………?」
 チョコレートの甘味が喉を通った途端、身体に変調が起きた。傾げた首が、妙に細く華奢になった気がする。
 手も指先も、ほっそりと白く変わり、思わず撫でた頬も、絹のようになめらかな感触だ。
「おおお〜! 真! 高貴な猫を思わせる美少女になりましたえ〜。ほれほれ」
 駆け寄ってきた珊瑚が、手鏡を差し出す。
 映しだされたのは、はっと目を惹くまなざしを持った少女だった。しなやかなウエーブを描く黒髪が小さな顔を彩り、シャープな茶色の瞳は陰影を帯びて、近寄りがたいほどの気品を秘めている。
「源内。これは現代用語で云えば、『つんでれ』とかいう部類の娘御ではありませぬか?」
「まさしくそんな感じだな。このタイプだと、似合いそうなのは露出度低めの、身体にフィットしたデザインだろうな。これなんかどうだ?」
 わけのわからない展開に、思わず立ち上がって逃げ……る間もなく、真は、黒と紫のツートンカラーの戦闘服を手渡されてしまった。
「コードネームは『胡蝶蘭』ということで、よろしく」
「……ちょっと待てえ! 何でいきなり『胡蝶蘭』なんだ!」
「この戦闘服は、『花』をテーマにしたシリーズでな。戦う乙女にふさわしいだろう?」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて」
「ちなみに、そこにいるドウジ親分のコードネームは『しだれ桜』だ。闇夜に桜吹雪文の、ミニ丈着物風戦闘服というのが、我ながら良い出来映えだと」
「だから、何で俺が。……って、ドウジ親分? 嘘だろ?」
「まあまあ、兄さん。居合わせたのも何かの縁や。『義を見てせざるは勇なきなり』とも言うしな。怪獣にチョコを盗られた姫さんの、力になってやろうやないか」
 鉄火肌の美少女が、真の肩をぽんと叩く。桜色の可愛らしいくちびるから、ドウジ親分の口調で、澄んだ美しい声が漏れた。
「くっ、納得は出来ないが、状況は理解した」
 戦闘服をがしっと抱え、真は厨房……もとい、戦闘用員着替え室及びショコラドン殲滅作戦本部に向かう。
「この、もやっとした怒りは、チョコレートの化け物にぶつけることにする」
 ちらっと源内を振り返り、
(そして終わったら、貴様にもな)
 そう、心の中で呟いて。

「こんにちは〜。ああ、やっぱりここでしたか。源内さんも珊瑚ちゃんも、仮設住宅のほうにいらっしゃらなかったので、探しましたよ」
 着替え室に行った真と入れ替わりに、にこにこと現れたのは鹿瀬蔵人だった。
 割烹着姿に、芋の煮っ転がしを入れたお鉢を持ったいでたちは、身長2m20cmという巨躯をもってしても微笑ましい。肩に、溺愛するバッキー『ぶんたん』を乗せ、小脇に『お菓子の国の冒険』の映画パンフを抱えていればなおさらである。
 キノコ事件が収束して以降、彼はご近所のよしみということで、源内と珊瑚におかずをお裾分けに来てくれるのである。困窮するふたりを身かねての、人情味あふれる心遣いであった。
「はい。だしが沁みてて、美味しいですよ」
「蔵人ぉ〜。いつもいつも、差し入れありがとうですえ。妾たちは、人の情けに助けられて生きているのですなあ、よよよよ」
 芋の煮っ転がし入りお鉢を押し戴くように受け取って、珊瑚はそっと涙を拭う。
「すまんな、蔵人」
「どういたしまして。ところで、この美人さんはどなたですか? 誰かに似ているような気もするんですが……」
『しだれ桜』の戦士を見て、蔵人は首を捻る。
「そのうちわかる。取りあえず、これを食べろ」
 命の恩人ともいえる「むくつけき大男」にも、源内は容赦なくチョコを差し出した。
「うわ? こんな時にチョコなんて貴重ですね。……はっ? 源内さん、もしや僕のために用意してくださった?」
「……う、ん、ある意味、そうとも言える」
 ぱく、と一口で、蔵人は平らげ、そして。
「……ん……? 何だか、身体が軽くなった……?」
 張りつめた筋肉のみで構成されたような蔵人の巨体は、あっという間に、スリムな少女の体型に変わった。
「不思議ですねえ……」
 あまり驚いた様子でもなく、銀色の瞳の美少女は、腰まである長い黒髪を掻き上げる。そのさまがとても清楚で、中身が蔵人とわかっていながらも、源内はついうっかり見とれてしまった。
「えー、あー、ごほん。何というか、いろんな事情があってだな。あんたは『白百合』の戦士ってことで、よろしく頼む」
 蔵人が渡されたのは、『しだれ桜』の戦闘服と同系統だが、やや裾丈が長めの着物風衣装であった。花浅葱の地に百合文の、可憐なデザインである。
「戦士ってことは、何かと戦うんですね?」
「ああ。翼竜型の怪獣だ。仮に、『ショコラドン』と呼ぶことにした」
「ショコラドン……? ショコラータのことかなぁ?」
 持参の映画パンフを、『白百合』の戦士は広げる。可愛いもの好きの彼にとって『お菓子の国の冒険』は、見逃せない映画だったのだ。
 かぼそい指が、ストーリーの一場面を指し示す。それは、お菓子入りの大袋をくちばしにくわえたパステルピンクの巨大なひよこが、子どもたちにチョコやキャンディを配っているシーンだった。
 ひよこ体型ではあるがモンスターなので立派な翼があり、飛翔することもできる。
 くりっと可愛い目をした怪鳥『ショコラータ』は、心優しいチョコレートキングの使徒のひとりとして、子どもたちからとても慕われていた。
「ショコラータが実体化したんだったら、さぞ可愛いでしょうね……。倒せるかなぁ……」
 ほわほわと幸せそうに、『白百合』は目を細める。
「そういう心配はしないでいいと思うぞ。目撃者のドウジ親分によれば、ざっくりやってOKな凶悪顔のようだから」
「ふえー? なになに? これってチョコじゃん? それもふつーに甘そうなやつ。漢成分とか入ってるわけじゃないんだよな? なんでここに残ってんの?」
 はたと気づけば一匹のタヌキが、小動物特有のすばしっこさで、ひょいとテーブルに乗っかっていた。小さな前足で、小皿に残っているチョコの欠片をちょいとつつく。
「待ってたぞ、太助! そろそろ来てくれると信じてた」
 源内は両手で太助を持ち上げるやいなや、ぎゅむ〜っと抱きしめた。未だかつてない、熱烈歓迎である。
「ぐぇはふっ! おいこら、俺のことが大好きなのはわかったから、ちょっと力ゆるめやがれ」
「すまんすまん。今からマルパス司令のところに行くんだろ? 潜入作戦に参加するために。キノコのときもそうだったが、決戦前にわざわざ寄ってくれるってのが泣かせるじゃないか」
「いやぁ、あの俺、うっかり通りすがっただけなんだけど?」
 激しくいやんな予感がした太助は、源内の腕から逃げようと、じたばたもがいたのだが。
「そう遠慮するな。ほれ食え、美味いぞ?」
 抵抗もむなしく、口の中にチョコを放り込まれてしまった。
 ほどなく……。
 テーブルに戻された太助の身長は、すらりと伸びた。十代の少女の外見が、形づくられていく。
 きらきら輝く、いたずらっぽい瞳。くるんと輪を描いて流れる、長い巻き毛。柔らかなタヌキ耳に、ふさふさの尻尾。世にも愛くるしい、タヌキ美少女の誕生である。
「……ええっと?」
「すみませぬなあ、太助。実を申せばこのちょこは、漢成分ならぬ超ろまんちっく成分を含有しているのです〜」
 当然ながら太助は、オールヌード状態であった。が、珊瑚がテーブル脇で、白いブラウスとひまわり柄のスカートと、ついでに大きな黄色のリボンを持ってスタンバイしていたため、セクシーショットには厳しい銀幕ジャーナルの検閲も、なんとか免れそうである。
 身につけたスカートを引っ張り、リボンの位置を確かめて、太助はちょっぴりおすましなポーズを取る。
「俺、かわいい? 美狸っぽい?」
「可愛い可愛い。その明るさと華やぎは、文句なしの『ひまわり』の戦士ってことで、どうだ」
「ひまわりかぁ。わるくねーけどな」
 かくしてタヌキ美少女は、改めて、鮮やかなひまわり模様のミニドレス風戦闘服(ただし尻尾部分は調整要)を着用することと相成った。

「お話は全てうかがいましたわ!」
 ばばーん、と劇的にカフェの扉が開く。
 あふれんばかりの正義感に頬を紅潮させて、鳶城華音が入ってきた。
 抜けるような白い肌、絹糸のような黒髪、アメジストもかくやとばかりの紫の瞳を持つ、初々しい15歳。こちらは正真正銘非の打ち所のない、純度100%美少女である。
 ぎゅぎゅっと拳を握り締め、華音は珊瑚に向き直る。
「微力ながら、華音もお手伝いいたしますわ。バレンタインチョコは乙女の命。それを奪われたとあっては一大事ですもの、ショコラドンがたとえ夏から秋への能登半島や冬景色の津軽海峡へ逃げたとしても追いかけて追いかけて雪国へまいりましょう!!」
「ほほう。台詞の中によどみなく『能登半島』や『津軽海峡冬景色』や『雪国』を盛り込むことができるとは、若いのに只者じゃないな、娘さん」
 あえてそこに突っ込む源内もどうかと思うが、華音も負けてはいない。
「あら平賀こそ。江戸の人なのに演歌をご存知なんて隅に置けませんわね。それはそうと、戦士になるには、このチョコを食べればよろしいんですの?」
「いや、あんただったらその必要はないが」
「食べても、殿方のような超変身にはなりませんがのう。ただ、華音の美貌がいっそう強化されますえ」
 美貌強化と聞いて、華音は大きく頷いた。
「じゃあ、いただきますわ」
 ひとかけらを口にして、しばし。
「あまり変わった感じはしませんわね……。あら、でも」
 髪を手で梳いてから、華音は頬に両手を当てる。
「ま、髪がさらっさら! トリートメントしたてのよう! お肌もいっそう、すべすべになりましたわ!」
「ふむ。あんたには、『紫牡丹』が似合いそうだな」
 源内はいきなり断言し、そして華音は、なぜか加賀友禅の大振袖風戦闘服(ただしミニ丈)を身につけることになったのだった。

「植村さんに聞きました。珊瑚ちゃんのチョコが奪われちゃったんですって?」
 いてもたってもいられないという様子で駆けつけた三月薺は、エプロン姿であった。手には、銀色の「おたま」を持っている。
 茂霧山探索時にカレーを作ったときも、また、キノコ料理大会のときにも大活躍したおたまは、いわば歴戦の勇者の剛剣にも匹敵する、薺の武器である。
 日だまりの中で昼寝するうさぎのイラストがついた白いエプロンは、いわば、薺の「鎧」であったし、厨房に置いた大きな鍋は、「盾」ともいえよう。すなわち、薺は、戦闘道具一式を持参してきたのである。
「薺ぁ〜。来てくれたのですか。嬉しいですえ〜。……そうなのです、怪獣が、三倍返しの夢を打ち砕いて……よよよよ」
 涙目になった珊瑚を、薺はよしよしと撫でた。
「かわいそうに……。でも、見れば美少女な戦士の皆さんが集結しているようですし、良かったら私、カレー作って応援しますよ? 今回はカフェの厨房が、作戦本部になるんですよね?」
「つくづく、いい娘さんだなあ、あんたは。戦闘服はもう一着あるから、それを着てもらおうかとも思ったが」
 最後に残った『紅薔薇』の衣装を手に、源内は呟く。
「――あんたはもともと、花の名前を持つ乙女でもある。その必要はないかもしれんな」
「薺嬢ちゃんには、本部で司令官をやってもらえばええんやないか?」
『しだれ桜』の戦士が進言し、珊瑚も目を輝かせて賛同した。
「まるぱす閣下のような位置づけですのう。良い考えですえ」
「し、司令官っ? 美少女戦隊の?」
 思わずおたまを持ち直して、薺は身構える。と――
 
 もきゅもきゅもきゅ。

 テーブルに一匹、ラベンダー色のバッキーが乗っかって、残ったチョコを――食べてしまった。

「「「「「えええ〜!?」」」」」
『胡蝶蘭』が、『白百合』が、『ひまわり』が、『紫牡丹』が、そして『三月司令』が、同時に叫ぶ。
 それは薺のバッキー、『ばっくん』だったのである。
「………?」
 おそらくはばっくんも、(なんかヤバい?)と思ったのであろう。丸い目を見張り、きょときょとしている。
 効果は、すぐに現れた。
 バッキーの丸っこいぷにぷにしたシルエットが、美しい少女のものに変貌していく。
 細くくびれた腰と、ふっくらと盛り上がった胸。しなやかな四肢を、ふわりと長く伸びたラベンダー色の髪が覆い隠している。瞳もラベンダー色で、うっとりと夢みるように潤んでいるさまが魅力的だ。
「ばっくん……。ばっくんが超美少女に……」
「はっ。これは太助同様の激萌え悩殺しょっと。源内も、もと殿方の皆も、あまりこちらを見てはなりませぬえ」
『紅薔薇』の戦闘服を源内から引ったくった珊瑚は、『紫牡丹』と三月司令の手を借りて、美少女ばっくんを着替えさせた。
「……平賀のデザインセンスって、多岐に渡っていますのね。さすが江戸人ですわ」
 黒のオーガンジーと黒レースをこれでもか! とばかりに駆使した、装飾過剰なゴスロリ風衣装を眺めて、『紫牡丹』は感心したような呆れ果てたような声を出す。
「…………」
 青天の霹靂で、寡黙な美少女戦士『紅薔薇』と化してしまったばっくんの心情がいかなるものか、何しろ物言わぬバッキーのこととてよくわからない。
 が、差し出された手鏡を見ながら、紅い薔薇の髪飾りをつけたり、さらなる追加オプションというか三月司令の要望により、キュートな「うさちゃん仮面」を素直にセットしているところを見ると……そんなに厭ではないようだ。
「さてと。これで6人の『花の戦乙女』が揃ったわけやな」
 なりゆき上、リーダー格をつとめる羽目になってしまった『しだれ桜』が一同を見回す。
「そろそろ出陣といこうやないか。用意はええか? 『胡蝶蘭』。『白百合』。『ひまわり』。『紫牡丹』。『紅薔薇』。三月司令に敬礼!」
「きゃー! 皆さん、かっこいいですよー! 頑張ってくださいね」
 エプロン姿の司令官は、おたまをかざして激励する。
「美しくも凛々しい乙女たちですのう。頼みましたえー!」
 補佐官よろしく、その隣で、珊瑚はぶんぶんと手を振る。三月司令は、あれ? と首を傾げた。
「お留守番なんてもったいない。是非是非、珊瑚ちゃんも戦士化しましょうよ。ねっ?」
「いやぁ、妾は、そのう」
 しかし、何故か珊瑚はもじもじしている。
 そもそも、チョコを盗られて嘆いているのは、作った張本人の珊瑚のはず。本来なら真っ先に、不動明王型巨大ロボットを操縦し、ショコラドンに突撃して行きそうなものだが――
「どうしたの? あ、そうか、『お不動くん』のパイロットとして別作戦とか?」
「そのつもりでしたが……。ちょこ作成中に失敗作を大量摂取したせいか、一時的に体型が、その……ふくよかになってしもうて、ぱいろっとすぅつのさいずが合わず……。それを知ってか知らずか、その『花の戦乙女』しりーずの戦闘服は、見ればやたらに細身で、今の妾には着られるべくもなく……よよよよ」
 またも、珊瑚は涙にくれた。
 どうやらこのチョコは、乙女が食した場合、美肌・美髪効果はあれど、ダイエット効果はないようだ。ロマンチック成分の、思わぬ落とし穴である。
(それでも、珊瑚ちゃんのチョコ配布リストの中に源内さんが入ってさえいれば、サイズくらい調整してくれたと思うんだけど)
 梨奈は、こっそり思う。
 あえてスリムサイズの戦闘服を出してきたのは、珊瑚へのあてつけもあるのだろう。
 げに恐ろしきは、16歳姫君の義理チョコリストから外された、からくり設計者34歳の逆恨みである。
(おとなげない……)

ACT.2★乙女たちの花軍(はないくさ)
 
 出陣直前のこのとき、厨房の様相は一変していた。
 いったいどういう仕掛けを施したものやら、源内が冷蔵庫裏の隠しボタンを押したとたん、壁が反転して、怪しげなオペレーション装置がぐい〜〜んと出現し、天井からは、ずもももももーと巨大モニタが降りてきたのである。
 よもや、カフェの厨房にこんなからくりができていようとは。夢にも思わなかった梨奈はうろたえた。
「げ、源内さん。いつの間にここを改築……。ってあの、お店側の許可はっ?」
「俺にしか発現できない設定になっているから安心しろ」
「無許可なんですね!」
「ああ、梨奈は暇なら、オペレーターを頼む」
「んもう! そんなだと、珊瑚ちゃんだけじゃなく、誰からもチョコをもらえませんよ!」
 文句を言いながらもオペレーター席に座ってしまうのが、梨奈のいいところである。
「皆さん、見てください。ショコラドンが映ってます! ……この景色、見覚えがあるような……?」
 モニタを指差す三月指令に、『白百合』と『ひまわり』が頷く。
「本当だ。ここ、茂霧山ですよ。それも、テオナナカトルが出現したあたりじゃないですか?」
「あー。そうそう。あのへんにいたんだよな」
 まさしくモニタは、冬の茂霧山を映し出していた。こんなこともあろうかと(便利な言葉である)、源内はキノコ怪獣事件以降、この場所に隠しカメラを設置したらしい。予算の出所は不明であるが、『対策課』にうまいこと泣きついて援助してもらった説が濃厚である。
 天を刺さんとする剣のように、鋭角的な杉林が続いている。ひときわ高い木の上で、パステルピンクの翼竜は、しばしの羽根休めをしているようだった。
 その巨大なくちばしは、半透明の銀幕スーパーの袋をくわえている。中に、いくつもの小箱が入っているのが見て取れた。
 そこだけはチョコレート色の、凄みのある目が、ぎょろりと辺りを睥睨している。これからチョコレートキングの城へ戻るか、それとももう少し「材料」を集めるか。そんなことを考えているのかも知れないし――もしかしたら何も考えていないのかも知れない。
 自分の思考、すなわち「心」を持った存在だとは思えない、意思の疎通が生まれるべくもない怪獣であった。
「どうしてあんな姿で実体化してしまったんでしょう。ショコラータと全然違う……。可愛くない……」
『白百合』はがっくりと肩を落とす。
「本当に、つくづく、可愛くないですわねえ、美味しそうなのに。もっと可愛い怪獣なら良かったのですけれど。あらでも、写真を撮っておかなくちゃかしら?」
 持参のデジカメをモニタに向け、『紫牡丹』はシャッターを押す。
「いまいましい化け物だな。さっさと終わらせようぜ」
『胡蝶蘭』は、憮然として腕組みをし、モニタを見上げる。
「うんうん。それにしてもいいねえ、みんな。戦闘服がよく似合ってる。開発した甲斐があった」
 美少女戦隊を見回して、源内はご満悦である。『胡蝶蘭』が、じろりと睨んだ。
「あんた、もしや、楽しんでないか? この騒ぎがなくっても、とにかく、誰かに戦闘服を試させるきっかけが欲しかったんじゃ?」
「……! そんな、それは考えすぎだぞ? 胡蝶蘭」
 一瞬ぎくりとした源内に、すかさず『ひまわり』が追い打ちをかける。
「おっ! まだちょっぴりチョコが残ってるぞ! ええい、でてこい源内子ちゃん! いっしょに出陣だ!」
 最後のひとかけらを、源内は口に突っ込まれた。
「もご。や、あの俺は。こんなに立派な美少女戦隊が結成されたことだし! もう戦闘服の予備はないし……うわぁぁぁ〜!」
 抵抗はしたものの、時すでに遅し。
 ……ごっくん。
 チョコを呑み込んで、ほんの数秒後。源内の身にも、大いなる美少女化の波が訪れた。
「……あーあ。なんてこった」
 華奢でおとなしそうなショートカットの少女に変化した源内を見て、珊瑚はほくそ笑む。
「ほほ〜う。これはこれは源内子。守ってあげたくなるような美少女になりましたのぅ〜♪」
「ふん。その姿だと腹立ちも収まるな。ずっとそうしてろ」
 溜飲が下がったらしい『胡蝶蘭』も、ふっと笑う。
「源内子さんは私が全力でお守りします。さ、つかまって。共に茂霧山に向かいましょう」
「いや、だから俺は行くつもりもその必要もなくてだな。うわぁぁぁ離せぇぇぇぇー!」
 美少女源内子は、『白百合』に後ろからやんわりと、しかし振りほどけないようにがっつりと羽交い締めにされてしまった。
「俺もまぜろー! まわりじゅうをキラキラにする合体こーげきをやらかそうぜ!」
『白百合』の腕と、源内子(なんとなくこの名で定着)の腰にしがみついた『ひまわり』は、全戦闘服の背にセットされている飛行装置〈花の羽衣〉を広げた。
 そのままカフェを出て、茂霧山を目指して飛翔する。
『しだれ桜』、『紫牡丹』、『胡蝶蘭』、『紅薔薇』が、同様に飛び立ち――
 作戦本部には、わくわくしながら、かつ、カレーを作りながら見守る三月司令と、補佐官の珊瑚と、
「珊瑚ちゃん……。手作りチョコをスーパーの袋に入れておくのはどうかと思うわ」
 モニタを眺めてため息をつく、オペレーターの梨奈が待機することになった。

 ★ ★ ★

 ――そして。
 ストロベリーチョコの香りに満ちた茂霧山に、6輪の花が舞う。
 あたりの雰囲気が何となくキラキラとロマンチックで、『忘却の森』風になっているのは、『ひまわり』のロケーションエリアが少々影響しているのかも知れない。

『しだれ桜』は、由緒ある日本刀を思わせる武器を抜きはなった。輝く刀身が、冬の陽を受けて眩しい。
「桜花爛漫、天誅剣!」
 
 ぐわぁぁぁー! けぇぇぇーっ!

 美少女戦隊リーダーの必殺技をくらい、パステルピンクの翼竜は、凄まじい雄たけびをあげる。
 くちばしを開いた拍子に落ちた、チョコ小箱入り銀幕スーパー袋は、杉の木の枝に引っかかった。
「今です、ひまわりさん!」
「よっしゃあ、なーいすキャッチ!」
 それをタイミング良く横からゲットしたのは、うまく回り込んだ『ひまわり』と『白百合』だった。
「泣くな喚くなとっとと食われろ! 俺のお腹はぺこぺこだ!」
 がぶぅぅ!
『ひまわり』は、『白百合』や源内子とスクラムを組んだまま、ショコラドンに特攻した。
 ここ数日分のおやつ抜きの恨みをこめて、思いっきりかじりつく。
『ひまわりちゃーん。お気持ちはよくわかりますが、美少女だいなしですよ?』
 内蔵された通信機から、三月司令の声が響いた。
「あはは、俺、雑食だからつい。そだ、司令官にもストロベリーチョコのみやげ持ってってやるよ。ケーキの材料にしてもいいし、トリュフチョコつくってもよさげだぞ?」
『わあ。ありがとうございます』
「それでは紫牡丹も、行かせていただきますわ!」
『紫牡丹』が大振袖風戦闘服を広げると、どこからともなくBGMが流れてきた。
 ――『アンコ椿は恋の花』である。誰の選曲かは不明だが、花つながりということらしい。
「必殺技『聴かせるコブシ』を受けてみなさいな!」
『紫牡丹』の武器は特殊マイクであった。歌声を衝撃波に変換し、敵にぶつけるのである。

「あんこおぉぉぉ〜ぉ〜〜ぉ〜♪♪♪」
「きぇえええええーーー!!!」
 
 かなり利いたようで、ショコラドンは悲鳴に近い咆哮を上げている。
『もうひと息ですよ! 胡蝶蘭さんも、是非、必殺技を!』
「あ? ああ、うん」
 三月司令のご指示であるが、『胡蝶蘭』は少々ためらった。
 手には、美しい蘭の模様入りの銃を持っている。使うことはもちろん可能なのだが、しかし、必殺技というのは、どうやら技名を叫ばなければ発現しないらしいので――
『胡蝶蘭さん?』
「う……。仕方ないな……。オーキッド……フ……ファ」
 しばし言いよどんでから、ようやく決心する。
「オーキッド★ファンタジーバイブレーション☆ショット!」
 銃から放たれたのは、花びらのかたちをした、光の弾丸だった。

 ぎぐぐしゃあああーーー!!!!

 閃光に包まれたショコラドンは、ひときわ高い絶叫とともに、空中でくるくる旋回し――
 地表に、落ちた。
 ずしんと音が響き、地滑りのような土煙が立ち上る。
 しかし、まだ翼竜は降参していないようだ。
 首だけを伸ばして、きしゃあ、きしゃあ、と、上空の美少女戦隊を恫喝する。

 ――とん。
 その前に降り立ったのは『紅薔薇』だった。
「……、…………(奥義、薔薇の怒り)」
『紅薔薇』の武器は、薔薇模様の巨大ハンマーである。
 ものすごい勢いで、それが振り下ろされ――

 ショコラドンは、ひび割れた高級チョコの固まりとなったのだった。

ACT.3★バレンタインの行方

「良かった良かった。これで珊瑚ちゃんも、チョコが作り放題ですね。私も門下生に人情チョコを配ることにしますよ」
 皆で山分けすることにした巨大ストロベリーチョコをひと包み抱え、『白百合』は一同に手を振る。
 ちなみに源内子は、カフェの隅でぐったりと伸びたままの再起不能状態だ。
「紫牡丹は自分でいただくことにしますわ。せっかくの戦利品ですもの」
 チョコの山を抱きしめて、『紫牡丹』もほくほく顔である。
「うわ、もうこんな時間。俺、そろそろ行かねーと! またカフェで会おうな、みんな!」
 タヌキの姿に戻った太助は、身軽に走り出す。
 美少女効果は、本来、2日ほど続いてしまうのだが、太助がすぐに解除されたのにはわけがある。
 かの、漢成分含有チョコ(のようなもの)が、その秘密であった。ショコラドンを食べ過ぎた太助が、口直しに苦いそれを食したところ、すぐに美少女状態が解けたのだ。
 どうやら漢成分には、超ロマンチック成分を相殺する効果を持つらしい。
 さっそく『胡蝶蘭』もそれを食べ、今は、クールな探偵冬月真に戻っている。

 三月司令は『紅薔薇』と一緒に、珊瑚の義理チョコを作り直すミッションに協力することにした。
 盗られたチョコを無傷で取り戻したとはいえ、それぞれ立場のある殿方たちに、美少女化チョコを配布するわけにはいかなかったので。

 その後、しばらくして。
 花の戦乙女となってくれた一同のもとに、それぞれの美少女戦士ぶりを表現した、パステルピンクのチョコレート製フィギュアが贈られることとなる。
 なお、源内にも、差出人不明のその物体は届いた。
【源内子ふぃぎゅあ義理ちょこ:三倍返しは必須ですえ!】と、スーパーのチラシ裏を使って書かれたメッセージとともに。

クリエイターコメントこんにちは、神無月まりばなです。
この度は、マルパス司令の三倍返しを死守せよミッション(全然違う)にご参加くださいまして、まことにありがとうございます。皆さまの美少女ぶりをしっかと脳内に焼き付けて、今後の記録者業務の心の支えにしたいと思います!

★『ひまわり』の戦士さま:漢成分ネタ、こっそり使ってしまいました(平伏)。いろいろ激しく暴走してみたり。
★『紅薔薇』の戦士さま&司令官さま:おふたりともお疲れ様でした! いっそこのまま、特撮ものに出演していただきたい充実コンビでしたよ。
★『胡蝶蘭』の戦士さま:巻き込まれてご愁傷さまです。んが、素晴らしいツンデレっぷりでございました。
★『紫牡丹』の戦士さま:演歌な美少女は良いですね〜。台詞等、かなり遊ばせていただきました。お許しを。
★『白百合』の戦士さま:おそらく必殺技は「ほわわわ〜ん」な気がいたします。門下生の方々は萌え死にますな。

さらなるご活躍を祈りつつ、また銀幕市のどこかでお会いできる日を楽しみにしております。
公開日時2007-02-16(金) 01:00
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